■海水の塩素による配管や容器のクラック発生による放射能漏れが福島第一原子力発電所事件の中期的な課題
福島第一原子力発電所の6基の原子炉それぞれの主母電盤まで電源が来ました。
今までは海水を注入し熱を奪っていました。
どういう事かというと燃え盛る山火事に水鉄砲で海の水をかけていたようなもの。
炎症は多少防げても事態の改善は望めませんでしたし、なにより悪いことに海水はそのまま蒸発して空中へと漂っていきます。白い煙の形で目に見えることもありましたね。
あの中には原子炉で発生している放射能(放射性物質)も当然含まれていて大気を汚染し、地表に落下しほうれん草を汚染したり牧草を汚染して食べた牛が放射能を含んだミルクを出し、雨が降れば海に流れこんで海水にも放射能を広げていきます。
電源が復活すると、直接海水を入れる代わりに熱交換器という放射能を外に漏らさない装置を経由して放熱できるようになり、放射能汚染拡大の終了が見えてきたと期待が高まっています。
さて、かなり気が早いのですがここまで来た段階で技術屋としての大きな懸念点を表明しておきます。
他に手段がなく海水が投入されました。
ステンレス筆頭に、金属はとても海水に弱いのです。
保安院の方や解説の方だったか錆びるという恐ろしく間違った表現をされていました。
鉄は海水で錆びます。
ステンレスは、ステイン+レスで錆ないという英語なのですが、実は鉄と比較しても圧倒的に錆びやすい合金です。なぜステンレスの話を書くかというと、燃料棒は特殊金属をつかいますが、それ以外の大半はステンレスが利用されるからです。
そしてなぜ超錆びやすいステンレスが錆びないかというと、あまりにも錆びやすくステンレスは酸素に触れると瞬時に表面全体がさびます。薄いサビが膜のように全体を覆います。これを酸化皮膜といいます。錆びてしまった金属はそれ以上錆びることができません。
鉄が錆びてぼろぼろになるのは錆びるのが遅く、サビとサビの間に隙間がどんどんでき、金属全部が錆になってしまうからです。
では、錆びやすいことで自分を護っているステンレスに海水はどんな影響をおよぼすのでしょう。
海水が怖いのは塩分によって水だけよりさらに錆びやすくなるからです。
だとすると、ステンレスの原理からすればより錆びにくく丈夫になるはずです。
海水を使うと錆びてだめになるというのはかなり大きな間違いです。
溶接部分などで処理が悪く、ステンレスが成分的に鉄に戻ってしまった部分などがいわゆる錆びてぼろぼろになることはありますが、鉄でイメージされるような錆びて壊れるものではありません。
ステンレスが錆びる場合にはもらい錆びといわれる現象で錆びることがあります。
鉄などのサビが表面に付着してしまうと丈夫なステンレスの酸化皮膜が出来る余地がなくなり、そこから順に不純物に侵食されステンレス合金の成分が壊されサビが侵食していきます。
ステンレスの流し台など安く防御性能の低いステンレスでは錆びた鉄釘などをしばらく置いておくと紙やすりなどで磨かないととれないようなサビ跡がついてしまいます。
海水を使うと、海水中には様々な物質が溶けていますので、このもらい錆び現象を起こす可能性はあります。
ほんとうに怖いのはそれではなく、海水の主成分である塩の影響です。
塩は水中ではHとClというように分離しています。
Cl(塩素)は非常に活性の強いハロゲン族元素です。
ステンレスなどの金属の多くがハロゲン族元素が存在すると錆びるのではなく結晶構造が緩んでしまいクラックが入ります。いわゆるひび割れが入ります。
温度が高いほどこの現象は早く起き、100℃近くでは非常に活発に発生するようになります。
海水をやむなくつかったことで、かなり壊れてしまった燃料棒以外の水に触れる部分で、これからクラックの発生が容易に発生する状況が続きます。放射能が強いので洗浄することは難しく、これから3年近く冷却を続けなければならない中で、忘れられた頃に大規模な放射能漏れが起きる最も大きな原因となりそうです。
海水投入の影響を最小限に抑える方法としては、最も温度の高い部分でも4~50℃以下に保つという方法が考えられます。この程度の温度であれば塩素の影響はかなり小さくなります。
また、配管経路に脱塩装置を取り付けるのも有効ですが、海水が大量に蒸発していますのでカルシウムなどとともに金属表面に非常に硬い結晶となって塩分も固着しているはずで、長期間にわたり塩素が溶け出し続けると予想されますので温度を通常の運転よりも更に低くたっもつことが放射能漏れの再発を防止する上で重要になります。
※燃料棒の材質については経験がないので海水の影響はわかりません。
0 件のコメント:
コメントを投稿